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[かのかり妄想] 吾輩は肺魚である

 吾輩は肺魚である。名前はまだない。どこで生まれたかとんと見当がつかぬ。なんでも水槽という透明な水桶の中でスイスイ泳いでいたことだけは記憶している。吾輩はここで始めて人間と言うものを見た。しかもあとで聞くと、それは大学生という人間中で一番時間を持て余している種族であったそうだ。ここの大学生は時々我々を捕まえて焼いて食うという話である。しかし、その当時は何という考えもなかったから別段恐ろしいとも思わなかった。ただ水槽に身を乗り出している彼を見上げながらスイスイ泳いでいただけである。水槽の中で少し落ち着いて、大学生の顔を見たのがいわゆる人間と言うものの見始めであろう。この時、妙なものだと思った感じが今でも残っている。目や口以外の顔の装飾が我々よりも大げさである。顔の真ん中があまりに突起している。吾輩はふと、彼が吾輩の水槽よりもはるかに大きな桶の中にいることがわかった。桶と言うより箱である。吾輩の水槽と違って、周りが透明ではなく水は入っていない。これがこの大学生の住居であるらしい。 この大学生の家の水槽でしばらくよい心持に泳いでおったが、しばらくすると上から何かが降ってきた。吾輩は無意識にそれに食らいついた。美味である。大学生が水槽に身を乗り出し吾輩を見つめている。食している所をまじまじと見つめられると気恥ずかしいものである。見つめるのを止めよと言いたいところであるが、この美味なる食持がもらえぬと困るので、黙っておくことにした。食物を探しにいくことなく、天から降ってくるというのは誠にありがたいものである。天からの恵みである。天の恵みが終わると、吾輩は再びスイスイと泳ぎ始めた。食後の運動である。大学生はまだ吾輩を見ている。吾輩の泳ぎを見ても面白ないと思うが、彼はじっと吾輩を見ている。 吾輩の泳ぎを見るのに飽きたのであろうか。突然住居の中央で横になり、「まみちゃん」という単語を大声で連呼しながらゴロゴロと転がり始めた。吾輩の水槽も揺れるほどに激しく転がっている。転がりながら壁に体当たりをしている。非常にうるさい。甚だ迷惑である。すると今度は突然、身に着けていた物を脱ぎ始めた。彼が身に着けていた物は服というらしい。彼は服という物を幾重にも重ねて身に着けていたがそれをほとんどすべて脱いだ。吾輩の真似をしているのであろうか。これから吾輩と一緒に水槽で泳ぎたいのであろうか。泳ぐにして