[かのかり妄想] とある女性刑事の推理日誌

私は練馬警察署の刑事課に努める警察だ。いわゆる所轄刑事とか女性刑事と呼ばれる職業だ。先ほど、所轄管内のアパートの1室で変死体が発見されたとの連絡があった。場所は、ロイヤルヒルズ練馬というアパートの2階だ。急ぎ、現場に向かった。ご遺体は、木ノ下和也さん21歳、練馬大学の2年生。検視結果によると、死後2日ほど経過しているとのこと。第1発見者は木ノ下和さん、ご遺族のおばあさんだ。木ノ下さんの好物を届けに伺ったところ、倒れている所を発見し、119番連絡したが、救急隊員がついていた時にはすでに亡くなっていたため、警察が駆けた。第1発見者に発見時の状況を聞きたいのだが、精神的にかなりまいっており、聞ける状態ではない。とりあえず、現場の状態を確認する。部屋の窓にはがかかっていた状態だ。鑑識からの報告によると、死因は急性呼吸不全。病気あるいは毒物による中毒症状。食器からはアコニチン系の毒物が検出されたとのこと。毒物による中毒ということであれば、事件性が疑われる。司法解剖にまわされるだろう。


これは、自殺だろうか、それとも他殺であろうか。現場の指紋や髪の毛を採集し、関係者に聞き込みし、彼らの指紋や髪の毛と照合することとなった。自殺と他殺両方の線で捜査する方針だ。


まずは第1発見者およびご遺族の話を聞くことにした。

和「あの子はワシの孫で、あの子が元気に過ごすことを第一にと思って毎日仏さまに祈っておったのに。まさかこんなことになるとは…。何か悩みがあったんじゃろうか。千鶴さんという素敵な彼女もおって、順風満帆に過ごしていると思っておったが。ううう…。」

遺体発見時の状況を聞きたいのだが、話をできる状態ではなさそうだ。代わりの隣に立っていた男性が話を始めた。

和男「母が訪ねて、呼び鈴を何度も鳴らしたのですが、応答がなく、せっかく食べ物を持ってきたので、冷蔵庫に入れ、書置きを残しておこうと、合鍵で玄関を開けたところ、和也が倒れているとことを発見したとのことです。慌てて119番連絡したのですが、救急隊員が来た時にはすでに息がなく、救急隊員の方がそのまま警察に連絡したと母からは聞いております。」

この辺りの情報は救急隊から聞いた話と一致する。第1発見者の証言から、部屋の窓にも玄関ドアにも柿がかかった状態、現場は当時いわゆる密室状態だったということになる。


次に故人の友人たちに話を聞くことにした。

木部「まさか、かずちんが亡くなるなんて。あいつは、優柔不断でちょっと抜けてるなところもあるけれど、基本的に親切で、人に恨まれるようなヤツではありません。オレたちが小学生のころ、朝顔を育てる課題があったんですが、オレがその鉢を倒してしまい、朝顔の種はなくなったのに、あいつは朝顔が咲くと信じて水をやり続けたことがあって…。抜けてるところもあるけど、根が優しくていい奴なんです。あいつがヒトに恨まれるなんてありえません。鬱になっている様子もなかったし、千鶴さんって美人の彼女さんもいて、イチャイチャ楽しそうにしてたし、自殺するようなヤツじゃありません。」

栗林「オレは、失恋したとこがあって、もう恋なんてしないって思い、ふさぎ込んだことがあったんですけど、あいつがデートをセッティングして慰めてくれて…。いいヤツなんです。最近は自炊始めたみたいで、どーさんに教えてもらいながら自分で料理作ったりしてるみだいです。どーさんっていうのはオレたち共通の友人で、斎藤道三(みちみつ)っていう練馬大学の同級生です。」

友人の証言によると、故人は人に恨まれるような性格ではなく、自殺をするような様子もなかったらしい。彼らから、他の知人を紹介してもらうことにした。紹介してもらったのは、元カノ・七海麻美さんと今の彼女・水原千鶴さんだ。七海さんは彼らと同じ大学にいるらしい。水原さんは連絡先が不明とのことだ。七海さんと斎藤さんにコンタクトを取ってもらい、最初に斎藤さんと話をした。

斎藤「僕は和也君とは同じ学科の同級生で、お互いの家に遊びに行ったり、一緒に期末の勉強したりしてました。和也君は優しくていい人でした。僕は大学入ってからの友人ですが、彼と幼馴染の木部君だったら彼ことをもっとよく知っていると思います。」

先ほどの友人2名と同じような証言だった。続いて七海さんと話をした。彼女は故人の元カノとのことだ。

麻美「和君とは1年半以上前に1か月だけ付き合ったんですけど、私の事情で別れることになって、それ以来は普通の友達関係です。別れよって言ったのは私からだし、本当はまだ未練はあるかもだけど、和君のことを恨んだりしていません。和君を恨んでいる人とかに心当たり?うーん…。そういえば、レンタル彼女の水原千鶴さんって人が、常連客の和君からストーカー行為のようなのを受けているって言っていたような…??」

故人がストーカーという情報は初めて聞いた。これは重要な手掛かりになるかもしれない。水原千鶴という女性について、詳細を教えてもらった。ダイヤモンドというレンタル彼女事務所で働いている20歳前後の女性とのことだ。そちらに向かい、水原千鶴という女性から故人の話を伺うことにした。


ダイヤモンドという会社に向かう途中、故人のアパートの前を通りかかると、故人の部屋の前で座り込んで泣いている女性が目に留まった。頭にリボンを付けている10代後半と思しき女性だ。水原さんに話を聞く前に、その女性から話を聞くことにした。

瑠夏「私は和也君の彼女です。和也君が亡くなったって聞いて、急いでここに来たんですけど、うえぇ…。」

この女性に、生前の故人のことを訪ねた。

瑠夏「和也君は優しいし、格好良いし。人に恨まれるような人ではありません。でも、最近私誰かにつけられているような気がして…、それを和也君に相談したことがあります。あと、事件とは関係ないと思いますけど、最近は、野草を取って自分で調理するのにはまってるみたいなことを言ってました。タンポポとかツクシとかヨモギ、アサツキそういったものを取って、料理好きの友達に教えてもらいながら自分で調理してるみたいです。この前読んだラブストーリー小説の主人公がそういう人だったみたいで、それを読んではまったって言ってました。映画化もされた小説って言いてました。3代目 JSBの岩ちゃんが主人公だった映画、タイトルは「植物図鑑」だったかな。関係ないかもしれないですけど…、うーん、最近の変化っていたらそれくらいかなぁ…。」

この女性が水原千鶴という女性を知っているか、確認した。

瑠夏「最近、和也君は千鶴さんのことが気になるみたいで、私も別れ話を持ちかけられたんですけど、別れたくないっていいました。千鶴さんも和也君のことは好きじゃないっていってましたし…。」

ストーカーについては七海さんとの証言とは食い違いが見られたが、先ほどの個人の男性友人や七海さんの話ともおおむね符合するような話が得られた。やはり、水原千鶴という女性と話をする必要があるようだ。水原千鶴という女性と話をし、状況を確認し、これまでの証言を整理することにしよう。


ダイヤモンドに着くと、水原千鶴という女性もそこにいたため、彼女から話を聞くことができた。

千鶴「はい。木ノ下和也さんは、私のお客さんでした。常連さんです。ちょっと優柔不断なところもありますが、頼りになる男性といった印象です。人に恨まれるようなことはないと思います。」

七海さんから聞いたということは伏せて、ストーカー行為についてたずねた。

千鶴「和也さんはストーカーというほどでは…。」

水原さんは濁した回答をしたが、客だから明言を避けたのであろうか。ストーカー行為のようなものを受けていたとも解釈できるような、含みのある言い方である。一通り話を聞いたところで、一旦署に戻ることにした。


指紋の結果が出たとの報告があった。部屋からは、故人以外に、木ノ下和、和男、晴美、斎藤道三、更科瑠夏、水原千鶴の5名の指紋が採取されたようだ。私は、水原千鶴の指紋が採取されたということが気になった。家族やお互いの家で遊ぶ友人、交際している女性の指紋が採取されても不思議ではない。しかし、レンタル彼女と客の関係にある人物が、客の部屋に行くことがあるのだろうか。しかも、玄関だけではなく、部屋の中からも指紋や髪の毛が採取されたらしい。事務所の規約に反する行為ではないだろうか。ストーカー行為を諫めようとして、犯行に及んだという可能性もある。私は再度、水原さんに詳しく話を聞くことにした。

千鶴「実は私は木ノ下和也さんの隣に住んでいて、ロールキャベツなどをお裾分けに持って行ったりして、何度かお邪魔したことがあるんです。指紋はその時のものだと思います。和也さんは最近野草を使った調理にはまっていたようで、お礼にそのお裾分けをもらったこともあります。刑事さんがこの前おっしゃっていたストーカーについてですが、私たちのこの関係を勘違いしたのかもしれません。大学も同じですし…。あっ、このことは事務所には内緒でお願いします。」

最近の故人の様子に変わったところがなかったか確認したが、特に参考になる証言は得られなかった。この前は気にならなかったのだが、彼女が悲しそうな表情をしている点が気になった。


これまでの証言をまとめる。家族や男性友人の話によれば、故人は優しく、水原千鶴という彼女と仲睦まじく過ごしており、人から恨まれたりすることもなく、自殺するような悩みもないようだった。女性知人の話によれば、水原千鶴という女性はレンタル彼女であり、故人はその女性にストーカー行為をしていた疑いがある。一方、更科氏の話によれば、故人はストーカーの相談に乗っていた側の人間らしい。また、水原氏の話によれば、ストーカー行為は受けておらず、近所付き合いを勘違いしたのではないかとのことだ。水原千鶴という女性が事件に絡んでいる可能性を考えたが、そうではないかもしれない。もう一度状況を整理することにした。


一旦署に戻り、司法解剖結果の詳細を確認することにした。胃には豚肉や野菜などが残っていたようだ。特異な点としては、野菜がお店で販売されているようなものではなく、野草が使われていた点だ。


今までの証言をメモした手帳を見返した。更科さんの証言に「最近野草を使った調理にはまっている。ツクシ、ヨモギなど。」とあった。アコニチンといえばトリカブトが有名であり、ヨモギと間違われることもある。熟知していれば、間違うことはないが、最近はまったとのことだったので、ヨモギとトリカブトの区別を誤る可能性はある。また、木ノ下氏はおっちょこちょいな性格でもあったようなので、区別を誤った可能性が高い。しかし、故人が野草を採取している最中に悪意を持った人間が故意にそこにトリカブトを置いた可能性もないとは言えない。現時点では事故死か他殺か判断しかねる。そこで、この1週間で、野草が生息してる場所に個人が訪れた形成がないか、付近をあたってドライブレコーダーを入れようという方針になった。東奔西走し、何とか故人が野草を取っている映像を手に入れることができた。その辺り一帯には防犯カメラは設置されたいない。入手した映像を画像解析した結果、トリカブトが生息している辺りで野草を採っている故人が写ってことが確認できた。


が、映っていたのは故人だけではなかった。その人物は、トリカブトが生息している辺りから野草を採取し、それを故人の袋に入れていた。一緒に写っている人物は不鮮明でその映像からは確認しづらかったが、画像解析や歩行認証にかけたところ、その人物は99パーセントその人物であるとの結果がでた。この事件について、私がコンタクトした人物の一人だ。紆余曲折したが、結局、この密室事件は他殺と断定された。



斎藤道三は容疑を認め、私たちにこう話した。「僕は更科瑠夏さんという女性が好きなんです。でも彼女は和也君のことが好きで、彼の方しか向いておらず相手にされませんでした。それなのに、彼は瑠夏さんのことを無下に扱い、その一方で、水原千鶴という女性に入れ込んでいたんです。せめて瑠夏さんと誠実に向き合って欲しいって言ったんですが、自分のことを棚に上げて僕をストーカー扱いしたんです。それが許せなくて…。」

これが動機だったようだ。これにて~、一件~落着(遠山の金さん風に)。


目覚まし時計の音が聞こえ、私は目を覚ました。今日は12月24日だ。昨日、天皇誕生日(※)に彼氏へクリスマスプレゼントを買った後、今度の芝居の台本を読みながら読みながら、私はそのまま寝落ちしたようだ。私は一ノ瀬千鶴という名で舞台女優をしている。今度の芝居はミステリー。密室ものだ。私は女性刑事の役を演じる。それ以外に、被害者、被害者家族、男性友人数名、元カノ、自称彼女、被害者が好意を寄せいている女性(実はその女性も被害者のことが好きなのだが、その想いを伝えられない)が登場する。登場人物の関係が私とリンクし、その夢の中で私のカレが殺害されたため、寝汗をひどくかいた。そういえば、数年前のクリスマス、私が海君と芝居の練習しているときに、カレは私たちを尾行して、ずっとついてきたって言うこともあったなぁ。あれはストーカーっぽかったかも(笑) 今になって思えば、あの頃からカレは私に気が合ったのかもしれない。そう考えていたら、なんだか私の顔が熱くなってきた。

数年前のあの時はスマホケースをプレゼントしたけど、今回のプレゼントは手編みのセーターだ。カレ、変なTシャツばかり着てるし服のセンスもなさそうだから、良い感じのセーターを編んであげよう。


ところで、このシナリオはもょもとさんという人が書いたものだ。私も何度かお話ししたことがあるが、不思議な感じの人だった。もょもとさんが愛読している漫画に登場するキャラをこの物語に充てているので、殺人犯を作るのに躊躇し、事故死と他殺のどちらにするか、かなり迷ったらしい。「この漫画を知っている人だったら、登場人物を見るだけですぐ犯人がわかるかもしれないね。犯人マムシだから、歴女の桜沢さんもすぐ犯人がわかるかも。ちょっと補足しておくと、被害者が最近野草を調理することにはまっていることを知っていて、かつそのことを刑事さんに隠した人が容疑者。心理的に殺害方法につながる話ができなかったっていう感じ。」ともょもとさんは話していた。さらに、もょもとさんは話をつづけた「うーん、一ノ瀬さんの刑事役はまってるね。姫みたい。ちづる姫だね。ちづる姫。」

姫とは、もょもとさんが読んでいるミステリー小説に登場する姫川玲子(20代後半の女性刑事)のことだ。

(ただ単に私のことをちづる姫って呼びたかっただけじゃないの? そもそも私もっと若いし。あと、最後の遠山の金さん風にセリフ言ってっていうのもよくわかんない。変わった人。)と思ったが、もょもとさんには黙っておいた。


もょもとさんとの話を思い出していたが、夢とはいえやはりカレの様子が心配になので、シャワーを浴びて汗を流し、着替えた後、急ぎ部屋を出た。隣の部屋の呼び鈴を鳴らすと、カレが眠そうな表情をしながら玄関から出てきた。私は本能的に和也の胸に飛び込み抱き着くと、和也に口づけをした。「ちょっと待ってて」と私は言い、部屋にプレゼントを取に行った。プレゼントを持って和也の元へ戻ると、私は「 (無事生きていて)良かった。ハッピークリスマス、かずや。」と言いつつ、昨日買ってきたクリスマスプレゼントを和也に渡した。

私「プレゼントのセーターは Made by ちづるっ!」

(おわり)

(※この物語は平成です)


密室ミステリーと思わせつつ、ちづる姫の夢オチです。ラストは、夢で殺された和也君のことを心配しましたが、ほっとした反動で思い切りカレに甘えました。かのかりでのクリスマスといえば、ちづる姫と海君の芝居の練習を尾行する和君ですね。着想はそれです。芝居の練習と和也君のストーカーっぽい行為でした(笑)

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