[かのかり妄想] Dr. SARASHINA Part2

― 私は更科瑠夏。徐脈の病を抱えている。自分と同じ状況の人を治したいと思い、医療の道に進もうと思った。私はもともと理系科目が得意だったし、私と同じように心臓の病気に悩む人を助けたいという想いが強かったので、循環器内科医を目指した。私は無事都内にある某大学医学部を卒業し、研修医を終えて、町の総合病院に勤めている。その時の初めての患者さんは、木ノ下和也さん&ちづるさんご夫妻だ。私はこの患者のことをよく知っている。奥さんの木ノ下ちづるさんは有名な舞台女優 一ノ瀬ちづるさんだ。以前から、私はこの夫婦のことをよく知っている…。

旦那さんの和也さんは私の初恋の人だ。あと時は、大失恋をしたが、和也さんと出会って自分はドキドキをかじることができるのだとわかった。自分と同じように病に悩む人達を助けたいという思いが強くなり、医者を目指した。あの時の大失恋のおかげでいまの自分がいる。二人には感謝している。今では私も結婚しているが、臨床医として働く傍ら、研究もしているので、夫婦別姓を選択し、名前は更科瑠夏のままである。研究者としては苗字を変えない方が良いのではないかと考えた。

和也さん&ちづるさんご夫妻が、来院した理由は、妊娠中は血栓ができやすいとのうわさを聞いたので、心配で検査したいとのことだった。ちづるさんはその後も定期的に通院し、やがて女の子が生まれた。名前は「和鶴ちゃん」。和おばあちゃんが名付けたらしい。それ以降、私は和鶴ちゃんの かかりつけ医となった。和也さん&ちづるさんの間に生まれた女の子は元気な子とは言い難かった。特発性血栓症という生まれつき血栓ができやすい体質なのだ。この病気は難病指定されている。血栓の場所によっては生命の危機に関わるし、動脈瘤などを引き起こす恐れもある。血栓ができやすい体質ということで、妊娠したときの容態も注意深くみなければならない。血栓を防ぐ薬を飲み続けていれば生命の危険は関わる事態にはならないと思うが、飲み忘れたしてはいけない。和也さんとちづるさんが不安そうな表情をしている。私は「現在の医療では薬を飲んでいれば、血栓の発生を防ぐことができるので大丈夫です。」と言ったが、薬を一生飲み続けることになるであろう。私は内心では、薬を飲まなくてもよい生活を送れるようになってほしいと思った。私も病で辛い思いをしてきた。和也さんに会うまでは。

私は、和鶴ちゃんが薬を飲まなくても良い体になって欲しいと思い、診療とは別に特発性血栓症の発生メカニズムとその治療法に関する研究を始めた。「和鶴ちゃんが成人することには、発生メカニズムを解明し完治させたい。」その一心で最初は暗中模索しながらも、診療の合間に発性血栓症に関する研究を遂行した。特発性血栓症の患者さんの検査データなど、様々なデータを分析し、研究を進めている。和也さんと千鶴さんに了承を得、和鶴ちゃんのデータも使わせてもらっている。単独で研究を進め、論文も単著で執筆している。それから苦節15年、遂に発性血栓症の治療法を確立し、治験審査委員会の承認も得た。

和鶴ちゃんの高校生になる直前のことだ。ついに、その目標を成し遂げることができた ―


―――

木ノ下家では家族3人で夕食後の団らんを取っている。

「和鶴ももう高校卒業して、春から大学生か。和鶴が『私も更科先生みたいな医者になりたい。医学部に進む』って言いだしたときはびっくりしたよ。まさか本当に医学部に入れるとは。これも瑠夏ちゃん。。。いや、更科先生のおかげだよな。和鶴が健康になって、病気を気にせず勉強に励めたおかげだ。今では気兼ねなく運動もできるし。よかったよかった。」と和也が目を潤ませて語っている。

「ハワイアンズでおばあちゃん達に私たちの関係がばれ、気まずくなった時、瑠夏ちゃんは私達を助けようとしてくれてたのよねぇ。」とちづるが独り言のようにつぶやいた。和也が物思いにふけっていると、テレビからニュース速報が流れてきた。

『臨時ニュースです。今年のノーベル生理学・医学賞の受賞者が発表されました。』

「あ、ノーベル賞だって」と家族一同がテレビに目を向けた。

『今年のノーベル生理学・医学賞受賞者は日本人です。練馬区の〇△病院医師更科瑠夏さん。特発性血栓症の発生メカニズム解明およびその治療法に関する研究での受賞となりました。日本人女性初のノーベル賞です。』

和也・ちづる「ゑ!?」

『今、更科先生とオンライン中継でつながっています。』

『更科先生、この度はおめでとうございます。ひと言お言葉をいただけませんか。』

瑠夏「ありがとうございます。この度、私の研究が評価され、このような栄誉ある賞をいただけたこと、非常に嬉しく思います。私の大恩人のお子さんが発性血栓症だったことが、この研究に着手したきっかけでした。私も生まれつき徐脈を患っており、その辛さは知っていましたので、何とかして同じような境遇の人の助けになりたいと思いました。その思いで、研究に励みました。この研究成果が、発性血栓症に悩む人たちの助けになれば幸いです。」

『更科先生、ありがとうございました。』


「更科先生が和鶴のこと話してるわよ。」とちづるがつぶやいている。和鶴が涙を流しながらテレビの前に土下座している。

(終)

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